手術を受けようとしている消化器系のがん患者に心理療法によるサポートが与えた影響:無作為割当群の間での10年間の生存率の結果。
トーマス キューヒラー、ベアーテ ベストマン、ステファニー ラパット、ドリス ヘンネ-ブルンス、そしてシャロン ウッド-ドーフィニー
要 約
目的:
手術を受けた消化器系のがん患者が心理療法的なサポートを受けることにより、どれだけ生存率が改善するかを研究した。
患者と方法:
ドイツ、ハンブルグ大学病院の一般外科部と医学心理学部との協力により、無作為割り当て試験が1991年1月から1993年の3月まで行われた。
この試験に加わることに同意した患者(総数271名)は当初の診断が食道、胃、肝臓/胆嚢、膵臓、あるいは大腸/直腸であり、性別に分けられ、外科病棟で行われる標準的な治療を受けるコントロール群と、入院期間中標準的な外科的治療に加えて、規定の心理療法のサポートを受ける実験群に無作為に割り当てられた。2003年の6月から2003年の12月までに10年間にわたるフォローアップが遂行された。全ての患者の生存状態は我々の記録と、三つの外部記録:つまりハンブルグ癌登録、家庭医、一般市民登録局に拠った。
結果:
カプラン-マイヤー生存曲線はコントロール群より実験群の方が生存率が良いことを示していた。未補正十年生存率の群間有意差はP=0.0006であった。Cox回帰モデルでTNMステージング、残存腫瘍の分類、腫瘍の部位を考慮してみるとやはり10年で有意差がみられた。実験群が良いとの二次解析の結果がみられたのは、胃、膵臓、原発性肝癌、大腸/直腸癌の患者群であった。
J Clin Oncol 25:2702-2708. Copyright 2007 by American Society of Clinical Oncology (臨床腫瘍学雑誌 25巻2702頁~2708頁。著作権 2007年 米国腫瘍学会)
はじめに:
心理腫瘍学(サイコオンコロジー)は医学の行動研究で今話題のテーマである。社会心理的な治療が癌の予後に影響を及ぼすと言う内容は、素人の方々には福音と受け取られているが、医学界では論争の最中である。(文献1,2)
さらには、どのタイミングでの心理学的介入が最適であるか(標準的な医学治療の前か、最中か、治療後か)、どのような患者との接し方が有効なのか(標準化された方法、個別に扱う方法:個人個人と接するか、家族単位でか、グループ療法を選ぶか)また、社会精神的な治療が余命に影響を与えるのかどうかが医学界で専門的な論争を巻き起こしているのだ。(文献3,4)
最近の再調査によれば、1954年から1999年までの期間の研究を調べると329の研究が発表されているが、その中で公正とみなされる方法で生存率について言及している物はわずか四つに過ぎない。(文献5)これらの研究を参照すると、フォローアップ期間は1年から6年にわたり、症例数は66から121人にわたっていたが、社会心理的な治療の結論も推薦も、なされてはいなかった。同年、「ネーチャー リビューズ キャンサー」誌上(文献4)でシュピーゲル氏はがん患者の生存率を向上させる可能性のある研究を五つ見出しているが、同様にどちらともいえないとの結論の研究を五つ見出し、これらの研究に対して目立った再調査結果を提示している。方法は異なっているとは言え、この二つの再調査は共に、この分野で情報が集積されだしているにも拘らず、更なる研究が必要であると結論付けている。2002年以来さらに研究報告がなされた。(文献6)その研究によれば、生存率の違いは見られなかったものの、心理的に得るものがあったとの事である。さらにファウジー他(文献15)は10年間フォローアップした彼らの成果を提示して、心理的治療効果は生存率に関しては依然有意であったが、比較危険率(RR)は心理的治療を受けた群の方が受けなかった群より有意に低く当初の研究より低下した。(RR6.89が2.87に低下)
1991年ドイツのハンブルグ-エッペンドルフ大学病院外科で我々は無作為割り当て試験を計画した。それは手術を予定されている消化器系のがん患者が入院中に個々人への心理療法的な支援を受けた場合、受けなかった患者に比べて生活の質(QOL)が向上したかどうかを知るためである。生きているかどうかということが、生活の質の解析とは密接な関係があるため、我々は心理療法的なサポートが生存率に果たして影響を与えているかどうか、あるならば、どの程度であるかを検討した。この結果は1997年に発表され(文献7)以下のように要約される:最初の二年間の追跡期間に、実験群では136人中69人が生存し、対照群では135人中45人が生存していた。カプランマイヤー生存率曲線は未補正で群間に有意差を示した。(P=0.002、log-rank χ二乗=9.47)TNM分類や遺残腫瘍分類(RTC)を含めたCox回帰モデルでも群間に優位差を認め、実験群の方が良好な結果が得られた。(文献7)。この文献には10年生存率の結果も記載してある。
目的:
もともとの研究では心理療法を受けた実験群では、それを受けなかった対照群と比べて二年後の時点で、はるかに良い生存率を示した。それで、この研究の第一の目的は10年目で生存率はどうなっただろうか?心理療法の効果は持続しているだろうか?を判定することであり、第二の目的は腫瘍の発生部位に関係なくこの効果が明らかであるかどうかを証明することである。
患者と方法
最初の研究:実験のデザインと治療方法
まず初めに、患者を標準的な治療方法と標準的治療方法プラス一定の心理療法サポートの二群に無作為に割り当て試験がドイツのハンプルグ-エッペンドルフ大学病院で1990年代初期に行われ、以前の論文に詳細に紹介された。(文献7)手短に述べると、1991年1月から1993年1月まで、実験に加わることに同意し、条件を満たし手術予定だった癌患者271名、(内訳は食道癌31名、胃癌40名、膵臓癌40名、肝臓/胆嚢癌108名、大腸/直腸癌52名)は性別に分けられ、四つの外科病棟に術前術後の入院期間中、心理的ケアを行うように一人の心理療法士が割り付けられた以外、看護人員や通常の外科的医療は全く同じ様に割り当てられた。この研究のために特訓された二人のうち一人が患者を担当し、患者にこの研究の意義を伝え、療養生活をサポートするような人間関係を築き、ベッドサイドで心理療法的なカウンセリングを行った。特に心理療法士は聞き取った内容に応じて個々人に適したケアを行った。一般的に言って心理療法士は患者対し「闘病意欲」をかきたて、「絶望・目の前が真っ暗」と言う気持ちを減殺させるように感情・理性の双方に働きかけた。(文献8)また、知りたいことがあれば遠慮なくスタッフに質問して良いのだと、患者を安心させることが強調された。患者に対する守秘義務を適切に保ちながら、患者を全ての点で最高の状態に持っていくように外科チームと連絡を取り合うのが常とされた。95%以上の入院患者の心理療法は病棟で行われ、残りは病院のほかの場所で行われた。心理療法士は家族と社会的に彼を支えている人をも勇気付けた。退院前に心理療法士は患者が外科療法を感情的、また理知的にどう解釈しているか聞き取り、将来の計画を立てるのを援助した。図1は研究がどのように計画されたかの全体の流れと患者付加情報を示し、表1には実験に加えられなかった患者数とその理由を示す。
方法とデータ収集
患者の年令、性別、臨床的特徴、治療経過、生存率とQOLがどのようになったかが記録された。無作為な振り分けと手術の前、そして、術後10日14日、3ヶ月、6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月後に患者はヨーロッパ癌研究治療協会のQOL調査票C30(文献9)の記載を依頼され、また、どこの癌かに応じて腫瘍マーカーなどが測定された。開始時点における、これらの値は外科的手技に関連しており、あらかじめ定められた基準に従って測定され、外科の担当医もしくは病理医により確認された。その詳細については以前に発表された論文を参照されたい。(文献7)
10年間の追跡研究
10年間の追跡研究の間、生存率は三つの情報源から収集された。つまり1990年に始められたハンブルグ癌登録が基本情報であり、その記録が不完全な場合は、初めの研究に参加した患者の家庭医に質問用紙を郵送し、彼らのカルテから生存状況を確認した。これらの依頼状には初めの研究の内容紹介と、この研究を許可した二つの役所からの許可書の写しを同封した。(die Artztekammer Hamburg and der Hamburgische Datenschutzbeauftragte)書状への返信が無かった場合は、主任研究者から主治医、場合によってはその後継者に患者の生存状況を確認する電話をかけた。三番目の情報源として、ドイツ国内で引越しした人を記録した、国家の住民登録( das Einwohnermeldeamt)が使用された。
統計学的解析
解析は<intent to treat model>に基づいた。この方法では倫理的理由(等しく治療を受ける権利)によって患者が望めばもう一方の治療方法に乗り換えることが許されるのである。患者達の基本的な特徴に関して実験群と比較群の間で比較して差が無いことは差異をχ二乗検定、とt検定で確認した。決定的な結果である、生存率の違いについては初めにKaplan-Meier 生存曲線、log-rank testと一般的なWilcoxon 統計により調べられた。重要な予後決定因子(腫瘍の発生臓器、遺残腫瘍分類、TNM分類、付加的な治療、年令)の群ごとの変異により結果が影響されていない事を確認する為に、それらの因子をCoxの比例危険率モデルにより補正した。段階的に後方回帰することで(α<0.05を含み、α>0.10を除外)最も適した予後モデルが決定された。
結果
最初の研究での群間の比較
社会人口統計特徴は治療群の間に有意な差を認めなかった。(文献7)同様に、臨床的な特徴すなわち、腫瘍の発生臓器、TNM分類、遺残腫瘍分類も最初の研究の時点での術後の治療方法も実験群と、対照群で差が無かった。(文献7)肝臓/胆嚢の腫瘍については、術後に明らかになった組織学的情報に基づき、腫瘍の発生臓器を再確認して再分類された(表2)。再び、群間に統計学的な有意さは認められなかったが、実験群では5人の患者に胃腸原発の癌からの肝外転移巣が発見され、対照群ではそれは1人であった。
精神社会的な治療の結果の記述
半定型的インタビューに加えて、実験群の患者達は中間値で6回の面接を受けた。(平均6.91回;2回~25回)この内容は平均的面接時間が222分間であり(40分~1090分;10分以下の面接は数えなかった)入院日数は中間値22日間(3日~144日)。ほぼ同様の時間を、心理療法士と医師と看護師達が患者に関連した情報のやり取りと話し合いに費やした。倫理的な理由から34人の患者が対照群から実験群に乗り換え、10人が実験群から対照群に乗り換えた。実験群に乗り換えた患者は同じ分量の治療を受け、最初の半定型的なインタビューは受けなかったものの、術後の段階でより多くの面接を受けた。実験群の患者は様々な心理的治療を受けた:心理的な援助(81%)、危機回避(12.3%)、緊張を和らげる訓練(5.8%)、短時間心理療法(0.9%)、全ての精神的治療法の1/3近く(31.5%)が、診断過程、治療法、リハビリに関する情報に関する話題であり、もっと精神社会的な局面、例えば人生のバランスや存在意義に関する事柄や未来への期待感、人間関係、そして感情処理の仕方がそれぞれほぼ均等の10%から15%に分布した。死や死に行くこと、沈黙/非言語的なやりとり、取るに足らない話は全ての精神療法の中でおおよそそれぞれ5%を占めた。
10年目の生存率
ハンブルグの癌登録を使用して114人の患者のうち、57例(50%)の生存者が2年後も見出された。患者の家庭医からの情報でさらに46例(40%)が追加され、国家住民登録から残り11人(10%)の状況が確認できた。271人の生存状況はこのようにして確認された。
10年間の追跡期間中に136人の実験群中29人が生存し、135人の対照群中13人が生存した。表3はTNM分類、遺残腫瘍分類、性別の生存状態に関する情報である。10年間のデータを回顧してみると、最初の手術の時点で転移巣があった患者のなかで62人の実験群患者の中でたった3人、66人の対照群患者の中で3人がまだ生存していた。癌がその臓器内にとどまるか、所属リンパ節までに限局していた患者では結果は異なった物となった。臓器内に癌がとどまっていた実験群の患者23人のうち13人(57%)が、対照群の15人のうち3人(21%)が生存していた。同様にして癌が所属リンパ節までにとどまっていた実験群患者39人のうち5人(13%)が、対照群では41人中1人(2%)が生存していた。良性腫瘍の患者では、実験群対照群とも11人ずつの患者の中で実験群では8人、対照群では6人が十年後でも生存していた。TNMデータが紛失していた実験群、対照群1人、2人ずつの患者では十年後の生存者は0人であった。
この二群の患者全ての累積生存曲線を図2に示す。実験群と、対照群の臨床的に重要な相違が目で見ても示唆され、実験群と、対照群の生存率の間に統計学的に有意な差を支持した。(log-rank χ二乗=11.73;p=0.006)intent-to-treat のアプローチに鑑み、良性腫瘍や腫瘍が無い患者も(各群11人)生存率の解析に含められた。しかしながら、これらの患者を除外しても10年の時点での結果には変わりが無かった事は特筆すべきである。(log-rank χ二乗=10.43;P=0.001)
実験群と対照群の間で、腫瘍の発生臓器、TNM分類、遺残腫瘍(文献7)に関して差が無かったにもかかわらず、Coxの比例危険率モデルを用いて補正解析が行われた。その結果を表4に示す。表に示す如く、危険率もPの値も病の指標に照らして大差は出なかった。段階的な後方回帰においては、年令、性別、手術歴などの因子はモデルから除外された。付加的な治療法に関するデータは患者の報告に基づいているので、図表のデータよりは不正確であるので統計処理には含めないことにした。しかしながら、付加的な様々な治療法(表2)は単変数、もしくは多変数生存率解析の結果(実験群>対象群)に実質的な影響を及ぼさなかった。付加的な治療法を受けた患者と受けなかった患者の間で生存に率の有意な差は認められなかった(log-rankχ二乗=0.807;P=0.369)。この結果は化学療法のみを受けた患者と受けなかった患者でも同様であった(log-rankχ二乗=0.212;P=0.645)。
討論
シュピーゲル達により始められた心理腫瘍学の論文の焦点は転移した乳がんの女性に関する研究であった。五つの無作為割り当て研究が行われたが、(文献6,10,11-13)その中でシュピーゲル達(文献10)だけが心理社会的治療を受けた女性の生存率に優位な差が出たと報告している。文献をあさると、心理療法は白血病、(文献14)悪性黒色腫、(文献15)ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、(文献16)そして、様々な臓器から発生した(末期の)癌(文献17,18)に有効との報告がある。
実験群の患者の生存率をよくするとのこの独創的な結果はいくぶん驚くべきものであり、今まで考えられもしなかったものである。それで、我々のプロトコールと今引用した研究のプロトコールを比較する事は、我々のアプローチのどの点が特に重要だったかを決定する上で意義があると思われる。
他のいくつかの研究(文献6、10-13)とは異なり、我々は心理的治療を術前に、診断をつける段階で開始した。臨床的な経験からすると、この時期が一番不安が大きく、不確定的であるからである。心理療法家は手術に関係した不安に対処する為に術前に関与を開始した。術後第一週に、患者が二つのストレス、つまり大手術に伴う身体的な不具合と将来どうなるかわからないという心理的な苦悩に直面しなければならないときに彼等は助けの手を差し伸べた。心理療法家達は同様に予測可能なストレス、つまり病理組織学的な所見や補助療法の必要性などについて伝えることなどについて患者がうまく受け入れられるように援助した。身も心も落ち込んだ状態の時、希望や自信をかなり失っているだけでなくて、その人の本当の危機(われと我が人生、我が家族にいったい何が起ころうとしているか)に際してこれは本当に助けとなるものである。臨床的な経験に基づけば、何か事が起ころうとしている、まさにそのときにそばにいてあげて、そのことの相談に乗ることは、何週間も後にそのことについて話し合うよりはるかに効果があるものである。
ファウジー達(文献15)の研究同様、我々は患者が問題にどのように立ち向かうかだけでなく、外科や腫瘍学の治療のあらゆる点についての情報を話題にした。
退院時のインタビュー —患者が入院中の時を回想するとき— は全ての出来事に対する感情の総括に焦点が当てられた。それはシュピーゲル等や、キッサネ等の研究(文献6.10)にもあるように認知実存療法の要素も包含していた。心理療法的なサポートを受けた研究のごく一部の患者しかサポートを受けなかった患者に比べてよい結果が出ていないのか、は心理療法を行ったタイミングに関係しているのかもしれない。転移してしまったがん患者での心理療法に期待をもたせるような結果が得られないのは、病気の経過のなかで、心理療法のタイミングが遅すぎるからではないかと思われる。ストレスの減殺は、もしそれが心理療法の鍵となる機序ならば、腫瘍の進行状況からしても、治療の開始時期からしても、有効との結果を得る為には早期に行わなければならないのかもしれない。キッサネ等による最近の研究(文献6)—医学的治療のあとで、心理的療法を始めた早期のがん患者では、他の乳がんの研究同様、心理的に得る点は認められたが、生存率に影響を与えることは無かった—は我々の考えを支持するのかもしれない。
我々が術前術後の付加的治療法が二年以上のフォローアップ期間で、実質的な生存率に影響を与える意味の適応は無いことを見出しているので、早期にストレスを減殺する機序が重要に思われる。どのようにしたら、この補助的治療法がよりうまく病を乗り切ることができるかは、健康行動や社会的なサポートを向上させることに着目しなければならないが、これは理論上のことにとどまっている。というのは、これらの事はかなり複雑な概念であり、個別に測定することは出来ないからである。
最近の脳研究の結果、感情とりわけ恐怖感の分子レベルでの解明が始まった(文献19)。しかしながら、脳研究の結果がどの程度この研究の結果の生存率に影響を及ぼす可能性については類推の域を出ない。もし減殺できるものであれば、恐怖感は免疫系に影響を及ぼし、効率よく機能しつづけるかもしれなく、(文献23)その結果、実験群の生存率を向上させたのかもしれない。この考えは、もちろん純粋な仮説にとどまりはするが。
限界と弱点
この研究の強さは日常の診療行為に近いものであることであり、その目的が患者達の要望を満たすものであるが、同時にそれはこの研究の弱点でもある。術前にがん患者を集めた事で、癌の発生臓器別に分けることが出来なかった。というのも無作為に割り当てるときには診断は仮のものであったからである。このことから腫瘍が無かった患者や良性腫瘍の患者まで含まれる結果となった(これらの患者の除外は結果は変らないが)。患者に一人一人面接したことで日常の心理腫瘍学的ながん患者のケアを現実的に反映しているが、全く同じ研究の反復を困難にしている。もうひとつの限界は、比較研究ができるのは我々の病院で行われた心理療法との比較に限られると言う事実である。追跡調査に際して、我々は患者自身からの報告に拠らなければならなかった。それにもかかわらず、カルテから得られた情報であれ、患者から得られた情報であれ、実験群と対照群とのあいだに意味のある差は指摘できなかったし、全体の生存率の差を説明できる差があるとも指摘できなかった。しかしながらこの結果を一般に敷衍する際の一番の限界は健康管理システムの違いである。最初の研究の時に比べると、現在では術前患者の入院日数は一か二日に減り、そのために術前の心理療法を行う機会が減っており、たぶん術前の心理療法を増やすようなアプローチが必要になろう。
結論と推論
我々は手術を受ける消化器系のがん患者に無作為割り当て試験を行い、心理療法を併用した場合の有効性を検討した。術後十年の時点でがん患者の治療にあたっての予後に影響することが知られている全ての因子を検討した。入院期間中心理療法を受けることは、TNM分類や遺残腫瘍分類や腫瘍発生臓器のように十年後の生存にかかわる独立した予後決定因子であった。それで、我々は術前にできるだけ早く学際的な外科チームにより施される個人別な心理腫瘍学的アプローチは消化器系のがん患者の長期生存に有意な(統計学的にも、臨床的にも)影響を与えるものであると結論づけた。費用と効果を勘案して決められた患者一人あたりにかけるカウンセリングの時間は患者と心理療法家の個人面接では平均して222分であり、ほぼ同様な時間が患者と主治医の間で費やされ(平均して一人の患者あたり7時間)、生存率をかなり向上させたのである。
著者団の利害対立の有無の開示
著者団に利害対立はない。
著者団の分担
着想と計画:トーマス キューヒラー、ドリス ヘンネ-ブルンス、シャロン ウッド-ドーフィニー
研究物品と、患者の提供:ステファニー ラパット
データ収集とまとめ:ステファニー ラパット
データ解析とその解釈:トーマス キューヒラー、ベアーテ ベストマン、ステファニー ラパット、ドリス ヘンネ-ブルンス、シャロン ウッド-ドーフィニー
原稿の執筆:トーマス キューヒラー、ベアーテ ベストマン、ステファニ- ラパット、ドリス ヘンネ-ブルンス、シャロン ウッド-ドーフィニー
原稿の最終認可:トーマス キューヒラー、ドリス ヘンネ-ブルンス、シャロン ウッド-ドーフィニー
その他:ドリス ヘンネ-ブルンス(外科主任研究者)
文献(略、原著参照)
胃腸癌(疑い)の患者全てのスクリーニング(総数705名)
基準にあった患者(317名)
説明と同意が得られた患者(272名*)
性別に区分け 無作為に実験群(EG)と対照群(CG)に割り当て(総数271名)
術前のQOL評価
実験群(136名)
対照群(135名)
全入院期間中の心理療法的なサポート
実験群への乗り換え(34名)
心理療法の記録の収集
最終心理療法
心理療法は行わない
対照群への乗り換え(10名)
医学的データの収集
術後のQOLの評価
術後のQOLの追跡調査
3ヶ月 6ヶ月 12ヶ月 24ヶ月 入院 手術 退院
図1.研究のデザインと患者収集
* 対照群の一人の患者からは術後に同意を撤回した。
QOL quality of life (生活の質)
図2.実験群(EG:136名)と対照群(CG:135名)患者の累積生存率
累積生存率 生存年
ナチュラルクリニック21 医学博士 中島鉄夫 訳
癌の心理療法の発展を願い参考までに翻訳を掲載しましたが原本をお読みになる事をお勧めします。無断転載・2次利用などは固くお断りいたします。
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サイモントン博士の論文(日本語訳) |
論文・資料 |
癌の社会心理療法 |

