治療の現場から

       

アトピーとタバコの関係 久保Dr.からのアドバイス

2023.02.17治療の現場から

この記事をお読みのあなたは、タバコにどんなイメージを持っているでしょうか。

健康には百害あって一利なしと言われるようになって久しいタバコ。
今回はアトピーとタバコの関係を考えてみたいと思います。

筆者のプロフィール

院長

ナチュラルクリニック21院長 久保 賢介
1957年4月3日 福岡県 北九州市出身
2001年10月 有床診療所ナチュラルクリニック21 開設
所属学会:日本アレルギー学会/日本心身医学会
15年間以上、アトピー性皮膚炎患者の入院治療にあたっている。

詳しいプロフィール 医師・スタッフ紹介

ほとんどの医療機関と同じように

診察に訪れる患者さんには、必ず喫煙習慣の有無を確認していますが、喫煙習慣のある患者さんには、症状の改善のために禁煙することをお勧めすることになります。

青年時代、工業都市の大気汚染で喘息になった私には、気管支のアレルギー反応を引き起こすタバコの煙は大気汚染でしかありません。

また、もともと呼吸器科を主に診ていた医者ですので、喫煙による喉頭癌、肺癌、肺気腫の患者さんに多く出会ってきました。
皆さん、大後悔先に立たずで、癌が判った途端に顔色が変わります。

「タバコがやめられない!」は薬物依存です

大切な身体を傷つけてまで吸ってしまうタバコの魔力は、脳内の神経伝達物質「ニコチン」による薬物依存です。

ニコチンは強力な神経伝達物質で、吸うと一時的に脳の活動性が増しスッキリ感が生じるため、つい喫煙が習慣化してしまいます。

しかし、喫煙者の脳内では、ニコチン依存により本来の神経伝達物質であるアセチルコリンの生成量が減少しているため、禁煙してニコチンがない状態になると機能低下が生じ、考えがまとまらなくなって思考にモヤモヤが生じます。

アセチルコリンの減少は2週間程度すれば回復してきますが、この2週間が耐えられず、つい手を伸ばしてしまって悪習慣から抜け出せなくなるのです。

タバコをやめるにはゆっくり本数を減らしてゆき 1日1~2本にまで減らすと、完全にやめたときのリバウンドの衝動は軽くなります。

アトピー入院患者さんとタバコ

健康のためにはタバコは吸わない方が良いのは自明の理で、それはアトピー患者さんも同じです。

入院なさるアトピー患者さんの中にも、喫煙習慣があるという方はときどきいらっしゃいますが、最重症のアトピー患者は喫煙する余裕もないことが多く、喫煙者の多くが軽症~中等症患者という印象を持っています。

医療機関は敷地内全域が禁煙ですので、喫煙習慣のある患者さんには入院は禁煙の絶好のチャンスになります。

しかし、散歩などの名目でクリニックの敷地外へ出て、喫煙している患者さんをときおり見かけるのも事実ですので(敷地内での喫煙を発見した場合は直ちに退院頂きます。また敷地外での喫煙も入院治療中は原則NGです)、タバコのアトピーへの悪影響を改めてご説明したいと思います。

 

タバコがアトピーに与える悪影響は主に2パターン

①ニコチンや一酸化炭素を吸い込むことによって血流が悪化し、身体の酸素や栄養が不足することによって、免疫機能が低下するため皮膚炎が悪化する。

②タバコの煙に含まれる人体に有害な化学物質を吸い込んだり、皮膚に付着したり、付着した衣類や寝具に触れたりすることで皮膚炎が悪化する。

中でも悪影響が計り知れないのが後者で、特に加熱式タバコや電子タバコが普及したことに伴って、有害な成分がこれまで以上に多様化してしまっています。

これらのタバコは、まるで健康への害が少ないような印象が付けられて販売されていますが、長期連用のデータがないぶん、普通のタバコ以上に健康上のリスクがある可能性もあります。

日本禁煙学会も加熱式タバコ・電子タバコも健康上のリスクをサイト内で多数発信しています。
http://www.jstc.or.jp/modules/information/index.php?content_id=300

 

タバコの健康被害防止には、家族全体で禁煙を

一般的な紙巻きタバコの煙には、5300 種類の化学物質が含まれていて、発がん性物質も70種類含まれています。
中でもホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレンなどの化学物質は、シックハウス対策でも規制されているなど「アレルギーを誘発する物質」として知られていて、6 畳間でタバコを 1 本吸うと、有害物質濃度が環境基準の 4 倍になるという結果もあります。

特に副流煙には主流煙以上に有害物質が含まれるうえ、有害物質が衣類や家の中のカーテン、寝具などに付着すると、それらの成分を放出し続けることになります。

妊娠中の母親の喫煙が、生まれた子のアトピー性皮膚炎のリスク を高めるという研究もあります。
【出生前後の喫煙曝露とアトピー性皮膚炎のリスクとの関連:出生前コホート研究】
愛媛大学 助教 田中景子氏らによる研究
平成28年10月28日「Nicotine & Tobacco Research」電子版掲載
https://www.ehime-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/11/161114_2.pdf

また、韓国で58,336人(男女比:53.2%/46.8%)の青少年(12歳~18歳)を対象に行われた研究では、アレルギー性疾患のある生徒のほうが疾患のない生徒よりも喫煙率が高く、喫煙による各アレルギー疾患リスクのオッズ比は喘息で1.59、アレルギー性鼻炎(AR)で1.22、アトピー性皮膚炎(AD)で1.64でした。
The Use of Heated Tobacco Products is Associated with Asthma, Allergic Rhinitis, and Atopic Dermatitis in Korean Adolescents
Lee A, et al. Sci Rep 2019.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31776400

換気扇下の喫煙やベランダ喫煙であっても(密室内よりマシですが)家族の受動喫煙を防ぐことはできないことがわかっていますし、空気清浄機にもタバコの煙の有害物質を除去する効果はほとんどなく、厚生労働省から公表されている分煙効果判定基準策定検討会報告書にもその効果は極めて限定的であると記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/h0607-3.html

アトピー患者さんの症状改善を目指すなら、家族や身の回りの人が一丸となって禁煙にも取り組むことが望ましいことです。
※ただし、禁煙できない家族などを人格的に否定してはいけません。タバコをやめられないことは依存症であり、それもまたひとつの病です。

 

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