治療の現場から

       

アトピー悪化で退職しひきこもり状態に。入院治療を決意した青年。 症例:68

2022.03.23治療の現場から

20代 男性 入院期間2021年6月~8月

皮膚科通院をやめ、市販ステロイド剤を使用していた青年。
就労や日常生活に支障が生じてひきこもり状態となり、入院治療を決意した症例です。

症例写真は記事の後半に複数掲載しています。

入院までの経緯

乳幼児期からアトピーや喘息があり、幼児期は月に1回は入院するほどだったが、小中学校ではアトピー・喘息ともにまずまず落ち着いていた。

高校を卒業後に就職しその後一人暮らしを始めたが、食生活が乱れがちになりアトピーも徐々に悪化。

近医皮膚科を受診しステロイド混合軟膏や保湿剤の処方を受けていたが、途中で通院をやめ、市販のステロイド軟膏を二日に一回程度全身に塗布していた。

症状の悪化もあり退職。アパートにひきこもる生活が続いたため、親のすすめで実家に戻ったが、就労や日常生活に差し支えるほどの皮膚症状が続いていた。

母親がネット検索で当院を見つけ、入院希望で外来を受診。後日、入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

検査結果

入院後の経過

入院当日の朝まで市販のステロイド外用剤を使用していた青年患者さんです。

自宅では猫を飼っているということですが、アレルギー検査の結果、猫へのアレルギー反応は高値でした。

入院後、急にステロイドを中断するとリバウンドで強い反応が生じ、浸出液が止まらなくなる可能性が高いことを伝え、入院からしばらくは弱いステロイド外用を併用しながら治療を進めることとしました。

入院から1ヶ月程度は、リンパ節の腫れや倦怠感が生じたことはあるものの、皮膚症状は徐々に軽減し、全体的な赤みが治まって湿疹や傷も減少。この時期にはステロイド外用を中止することとしました。

ステロイド外用を中止した直後は、皮膚の赤みが増したり顔や首から浸出液が出たりする悪化がみられましたが、それも3週間程度で軽減しました。

その後も皮膚症状は日を追うごとに改善し、入院から2ヶ月経過での検査でも、アトピー性皮膚炎の程度を示すTARCが 1226(入院時3118・リバウンド時3967)と順調な状態を確認しています。

退院時の検査ではTARCは812まで低下し、自覚症状のPOEM(0~28)も 3に改善、変化に時間を要するIgE以外の項目は軽症者レベルまで改善しました。

ただし、退院後に2匹の猫を飼っている実家での生活に戻ると、アトピー症状が悪化するリスクが高いと考えられることから、退院後の生活環境を整えることを親御さんに勧めました。

助言を受けて親御さんは自宅庭に猫用の小屋を作り、患者さん本人の居住スペースに猫を入れないような対策を取ることにしたそうです。

自覚症のアンケートPOEMの内容
Q1 この1週間で、皮膚のかゆみがあった日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 →1~2日(退院時)1点
Q2 この1週間で、湿疹のために夜の睡眠が妨げられた日は何日ありましたか?
3~4日(入院時)2点 →なし(退院時)0点
Q3 この1週間で、湿疹のために皮膚から出血した日は何日ありましたか?
3~4日(入院時)2点 → なし(退院時)0点
Q4 この1週間で、湿疹のために皮膚がジクジク(透明な液体がにじみ出る)した日は何日ありましたか?
1~2日(入院時)1点 → なし(退院時)0点
Q5 この1週間で、湿疹のために皮膚にひび割れができた日は何日ありましたか?
1~2日(入院時)1点 → 1~2日(退院時)1点
Q6 この1週間で、湿疹のために皮膚がポロポロと剥がれ落ちた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → なし(退院時)0点
Q7 この1週間で、湿疹のために皮膚が乾燥またはザラザラしていると感じた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 1~2日(退院時)1点

ドクターコラム

患者さん本人はおとなしいタイプの青年で、入院前はアパートや自宅にこもっている期間があったとのことですが、入院中は同年代の患者さんたちと仲良くなり、優しい笑顔を見せることが増えました。

退院の日、迎えにいらしたお母さんに、彼と仲良くなった患者さんたちが順番に挨拶をしたり、出発する車をベランダから大人数で見送っていた様子からも、彼が他の患者さんから慕われていたことがよくわかります。

当院の入院環境では、ほとんどの患者さんが食堂で食事を共にし、散歩や自由に過ごせる時間も多いので、患者さん同士が仲良くなって互いの悩みや経験を共有し支え合うような、前向きなグループダイナミックスが生まれることが多く見られます。※入院をきっかけに知り合って結婚なさったカップルもいらっしゃいます。

特に、アトピーのために対人関係で悩んでいたり、他人と関わることを苦手にしていたりする患者さんは、アトピーという同じ疾患を持つ他の患者さんとの関わりで自信を取り戻している様子です。

カウンセリングを通じた心理的なアプローチも有効ですが、気が置けない仲間や友達という存在も心の癒しにつながるのです。

また、新しく入院してきた患者さんに対して退院間近の先輩患者さんが、「少しの間はつらいけどきっと良くなるから頑張って」などと励ましたり勇気づけたりしてくれることもあるのですが、患者さんにとっては我々医療者からの言葉以上に、入院治療を終えて元気に退院していく先輩からの言葉に説得力があるようです。

入院患者さんには、お互いに励まし合いながら、入院生活の楽しい時間もつらい時間も乗り越えていってもらえたらと考えています。

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