治療の現場から

       

夏場のアトピー対策はココに注意!:久保Dr.からのアドバイス 2023年5月更新

2023.05.30治療の現場から

院長 久保 賢介 のプロフィール

院長

1957年4月3日 福岡県 北九州市出身
2001年10月 有床診療所ナチュラルクリニック21 開設
所属学会:日本アレルギー学会/日本心身医学会
15年間以上、アトピー性皮膚炎患者の入院治療にあたっている。

詳しいプロフィール 医師・スタッフ紹介

夏のアトピー対策とは?

アトピー患者さんの中には、季節によって比較的皮膚炎が安定しやすい時期と、反対に悪化しやすい時期があるという方がいらっしゃいます。

人の皮膚には、皮脂腺から油脂を分泌して冬季の乾燥から肌を守る働きがありますが、夏季には汗腺(水汗)で体を冷やす機能が活発に動きます。

夏に悪化するタイプのアトピー患者さんは、汗腺(水汗)からの分泌が増える事によって、じめじめした肌が好きな黄色ブドウ球菌というバイ菌やカンジダという酵母様真菌(カビ)が増え、発汗の多い肘や膝の内側や脇、首に赤い湿疹が生じてきます。

反対に、冬に悪化するタイプのアトピー患者さんは、皮脂分泌が盛んになって、油の好きなマラセチアという酵母様真菌(カビ)が増えます。マラセチアによる皮膚炎は、強い痒みと角化乾燥から悪化しやすい傾向があります。
※夏のアトピーにマラセチアが無関係だとか、冬のアトピーに黄色ブドウ球菌が無関係という意味ではありません。

冬の注意点はこちらのページ

それでは、夏場の悪化要因を掘り下げてみてみましょう

要因① 汗

先ほども書いたように、発汗が原因でアトピーが悪化するというのは非常によくあるケースで、アトピーの軽症者でも、首回りや肘や膝の内側など汗が乾きにくい部分だけに湿疹が生じているという人は多いものです。

また、暑さや運動によって汗をかくと、もともと皮膚炎が生じていた部位に痒みが増すというケースも非常に多くみられますが、これは、汗をかくと、マラセチアの一種が出す【MGL_1304】というタンパク質が汗に溶けて皮膚から体内に入り込み、このタンパク質にアレルギー反応を起こしているのだと報告されています。。

広島大学大学院の秀道広(ひで みちひろ)教授らの研究グループによる発表
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23726042/
Hiragun T, Ishii K, Hiragun M, Suzuki H, Kan T, Mihara S, Yanase Y, Bartels J, Schröder JM, Hide M. Fungal protein MGL_1304 in sweat is an allergen for atopic dermatitis patients. J Allergy Clin Immunol. 2013 Sep;132(3):608-615.e4. doi: 10.1016/j.jaci.2013.03.047. Epub 2013 May 29. PMID: 23726042.

この他にも、汗腺から汗が分泌される際、毛穴に潜んでいたマラセチアが皮膚表面に押し出されて、皮膚炎を悪化させることもよくありますし、汗疹(あせも)から皮膚のバリア機能が損なわれてアトピーが悪化することもあります。

汗をかく男性

汗をかくこと自体は新陳代謝という面から見ても良いことなのですが、悪化要因にしないためには、汗の処理が大切。
汗をかいたらなるべくすぐにシャワーを浴びたり濡れタオルなどでふき取るなどして、汗の成分を皮膚に留めないようにすることをお勧めします。顔や肘関節であれば洗面台でもすぐに洗い流せますね。

ウェットティッシュや市販の汗拭きシートを使う場合は、配合成分に注意しましょう。
就寝前には屈曲部の内側にベビーパウダーなどを塗って、なるべくサラッとした状態を維持するというのも有効です。

扇風機

お風呂上りのホテリには、冷水のシャワーや保冷材、エアコン、扇風機などを活用してなるべく早く汗がひくようにします。
本格的に高温多湿な季節になってきたら、エアコンをうまく使って汗をかかずに就寝できるようにしましょう。

炎症が強くなったら、お風呂から上がる直前に、洗い場で炎症部位にイソジンを薄く塗布して1分乾燥させ、すぐに洗い流すと効果的ですが、傷があるとしみます。

朝、発汗部位にスルファジアジン銀を塗布しておくことも有効な場合が多くみられます。

要因② 皮脂分泌

季節を問わず、油っこい食事やカロリーオーバーで皮脂の分泌が促進されると、皮脂を好物とするマラセチア(真菌=カビ)が皮膚に増殖します。

成人アトピー性皮膚炎では、ほぼ100%の患者さんがカビに強いアレルギーを示します。
特に皮脂分泌の多い顔や耳回りが悪化してきたら、カロリーオーバーの黄色信号。脂漏性湿疹を起こしやすくなります。

アイスクリーム

食べ過ぎは、忘年会など外食の機会が増える冬場にも問題となりますが、夏場はBBQやお祭りなどのイベントでの食事や、脂肪分の多いアイスクリームなどが要注意です。

また、アルコールもアトピー性皮膚炎の炎症を悪化させます。
特にビールはビール酵母成分(カビ)を含むため避けた方が無難です。どうしても飲むときは焼酎・ウイスキー等の蒸留酒にしてください。

夏バテしないよう食事はしっかり摂るべきですが、この時期こそ、食べ過ぎに注意して食事をコントロールする必要があります。

要因③ 紫外線&日焼け止め

夏場に強まる紫外線。
人の皮膚は紫外線を浴びると日に焼けますが、長時間になると組織が破壊され皮膚のバリア層が傷ついてしまいます。

日焼けする女性
この傷ついた皮膚を掻いてしまうと、皮膚には追い打ちのようにダメージが重なって、その後のリカバリーに時間がかかったり、皮膚炎のコントロールが不良になることがあります。

健康な皮膚の方であっても日焼けには注意が必要ですが、アトピー患者さんはそれにも増して要注意です。

急に強い太陽光線にあたると、光線過敏症の一種である多形日光疹(たけいにっこうしん)が生じる人などもいますので、普段、屋内で過ごすことが多い内勤者や学生は、レジャーなどでの急な日焼けに注意して下さい。

多形日光疹とは?
光線過敏症の一種で、強い紫外線を浴びた後に腕や手の甲などに赤くて痒いブツブツ(直径1mm前後)が生じる湿疹です。
数日~1週間程度で改善することがほとんどですが、アトピー患者に生じると、皮膚のバリア機能を損なうことにつながるため要注意。紫外線を浴びる機会が増えると、耐性がついて症状も生じにくくなります。

日傘やアームカバー、フェイスマスクなどを活用して、不要な紫外線は避けるべきです。近年は、男性の日傘も普及してきました。

日焼けグッズ

また、日焼け止めは、アトピー患者さんであれば成分を吟味して選んでいると思いますが、それでも合わない場合もあります。

特にオイルタイプは油脂成分をマラセチアが好む可能性があるので注意し、どんな日焼け止めでも帰宅したらすぐに洗い流すようにしましょう。

ただし、太陽の光には自律神経を整えたり体内でビタミンDを生み出す働きなどがありますから、まったく当たらないというのもおすすめはできません。

要因④ 虫刺され

蚊やアブ、ブヨなどの虫さされによって痒くなった部分を掻き壊してしまい、そこからアトピーが悪化するというケースもたびたび見られる悪化例で、虫刺されが引き金となって結節性痒疹を生じているケースもあります。

虫よけ
虫よけスプレーや虫刺されの薬での皮膚炎悪化も考えられるので、なるべく天然成分のものを使うと良いでしょう。

最近では、衣類の繊維に虫が嫌う天然成分を含ませた、防虫ウェアも登場していますし、アウトドア用品では昆虫のオニヤンマを模した虫よけグッズも人気のようです。

要因⑤ 腸内環境

夏場はBBQやお祭りの屋台での油っこい食事、そうめんなどの冷たい麺類やアイスクリームといった、体を冷やしたり腸内環境に影響大の食べ物が増える季節です。

腸内環境=腸内フローラ(細菌そう)です

人間の免疫機構は腸管免疫の働きが大きなウェイトを占めていると考えられていますから、腸内環境を崩すことは体の免疫そのものを崩すことにつながります。

アトピーのコントロールに食事が重要なのはどの季節であっても変わりありませんが、腸内環境を意識した献立の食事を心がけて、暑い夏を乗り切って頂きたいと思います。

当院の食事療法のポイントや日々のメニューはInstagram【ナチュクリキッチン】でも発信中です。

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マスクやドライ素材の衣服にも注意

新型コロナウイルスの流行から、生活の中にマスクが欠かせない日々が数年間続きました。

最近はマスクをしない人も増えましたが、接客業などは、まだまだマスク着用が普通。
当院でも、スタッフの大半は勤務中はマスクをしていますが、TPOに応じてマスクを外したり、自然素材のマスクを選ぶなどして対応しています。

また、速乾性などから人気のドライ素材の衣服は、内側の縫い目が皮膚の柔らかい部分や弱い部分に擦れて皮膚にストレスを与えることがあり、特に夏用の半袖ウェアの場合は二の腕あたりに縫い目が擦れて皮膚炎を誘発している場合があります。

冬場の発熱素材の肌着などにも言えることですが、皮膚のことを考えると、やわらかい自然素材の生地でできた衣類がお勧めです。

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