治療の現場から

       

自己流脱ステで悪化 寝たきりだった青年も症状改善で気持ちにも変化 症例:63

2021.09.10治療の現場から

20代 男性 入院期間2021年1月下旬~6月上旬

脱ステロイドによって動くこともつらい状態となっていた最重症患者さんのアトピーが大幅に改善し、前向きな気持ちを取り戻して退院なさった症例です。

口元#63

症例写真は記事の後半に複数掲載しています。

入院までの経緯

未成年の頃

小児期にはアトピー性皮膚炎はなかったが、大学生になった18歳頃から、ひじや膝に湿疹や痒みが生じるようになりステロイド外用を開始した。この時期、親元を離れたばかりで食生活も乱れていた。

就職後にアトピーが悪化して入院

大学卒業後、社会人となると日中にステロイド外用薬を塗る時間が確保しにくくなり、症状は徐々に悪化。
顔面に腫れや滲出液などが生じて休職することとなり、地元の病院に入院した。
この病院で、免疫抑制剤の内服とステロイド外用治療を受けたところ症状は改善したため退院・復職。

復職するも再悪化で退職

その後しばらくは普通に勤務できていたが、復職後1年を目前にして再び症状が悪化し、就労が困難となったため退職して実家に戻った。

脱ステロイドで激悪化 身動きもつらい状態に

実家でも免疫抑制剤とステロイド外用を継続していたが、自己判断で減薬し最終的に脱ステロイド状態に。
脱ステでのリバウンド症状が激しく、痛みによって体を動かすのも難しくなった。心理面でも不安が大きくなりインターネット検索で非ステロイド治療に理解のある医療機関を検索。当院を知り、後日入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

検査結果#63

入院後の経過

入院時の状態は最重症

入院時の検査で、皮膚炎の程度を示すTARCが約75.000、アレルギー体質の程度を示すIgEが100,000を上回っていた、最重症のアトピー性皮膚炎患者です。

顔・首・耳周辺を中心として全身に非常に強い皮膚炎が生じており、歩行も困難な状態。
当院まで自家用車で片道6時間以上かかる自宅から、ご両親が夜通し運転しての入院でしたが、強い痒みや痛みで座っていることもつらく、悪寒による震えも止まりませんでした。

忍耐強く過ごした二ヶ月間

入院直後から治療と並行してバイオ入浴にも取り組みましたが、極めて重症状態からの入院ということもあり、前半の2ヶ月間ほどは身の回りのことをするのが精いっぱいで、バイオ入浴の時間以外は、ほぼベッドの上で過ごしていました。バイオ入浴とは?

この時期は、院内での勉強会は気力を振り絞って出席するものの、悪寒が強く、室内暖房の他に彼の席の近くに石油ストーブを用意する必要があるほどでした。※つらければ参加しなくても結構ですと伝えましたが、治療意欲から出席なさっていました。

動けるようになったが体力は低下

入院2ヶ月を経過する頃から徐々に動けるようになりましたが、体力アップを目的に院内のエアロバイクに10分間ほど乗ったところ、すぐに筋肉痛になり、入院前からの寝たきり生活による体力低下を実感していました。

エアロバイク

改善が進んで他患との交流も

また、同時期に久しぶりに1階受付窓口をたずねていらした際には、入院時からのあまりの変化(改善)に、複数の受付担当者が「どなたかわからなかった」と驚くほどでした。
この頃からは、他の入院患者さんとの交流や院内行事への参加も増え、特に患者間の交流が治療への積極的な姿勢を後押ししていました。

着実な改善は検査データでも

当院が入院期間の目安としている2~3ヶ月を上回る、約4ヶ月少々の入院治療を経ての退院でしたが、検査結果を見ると入院後2ヶ月頃より皮膚炎が徐々に安定し、3ヶ月経過、4ヶ月経過と着実に改善に向かっているのがわかります。

退院時には、入院時のTARC76,000という超が付くほどの重症値から約10,000まで低下、IgEも入院時から約3分の1まで低下しており、時間をかけながらアレルギー体質が変化していっています。

自宅療養の必要性

この患者さんは、入院前の数年間に行った血液検査でも、TARCが7,000を下回ることはなかったとのことで、皮膚炎による体の変化がTARCに現れやすいタイプであるとも考えられます。

4ヶ月経過時点から退院直前の検査までの約1週間でTARCが微増したり好酸球が上がっていたりすることからもわかるように、充分なコントロール状態には及ばない段階での退院であり、退院後もしばらくはバイオ入浴を実践しながら自宅療養する必要があります。

心理面での変化

なお、入院当日には、「退院後に症例として掲載されるのは嫌です」と言っていたこの患者さんも(必ず入院時に確認を取っています)、退院が近づくにつれて「今後の患者さんのためになると思うので、掲載してもらってもOKです。」と自発的に申し出て下さいました。

完全なコントロール状態ではないにせよ、入院治療での体の変化が、彼の気持ちや視点にまで変化をもたらしていたようです。

退院後のフォロー

当院では、遠方から入院なさる患者さん向けに、退院後のフォローの方法としてオンライン診療を用意していますが、この患者さんにも、オンライン診療を活用しながら退院後のフォローしています。
※当院のオンライン診療は、日帰りでの受診が困難な地域にお住いの患者さんに対する退院後のフォローを目的としています。

追記:この患者さんの退院後の経過を別の記事にまとめました。
入院から1年、寝たきり状態から改善した症例:63のその後

ドクターズコラム

入院患者さんの傾向

「ステロイドを使わずにアトピーを改善させたい」という、非ステロイド治療の希望を持つ患者さんの入院治療をお受け入れしている当院ですが、実際に入院する患者さんに多いのは

■ステロイドを使用していれば症状は落ち着いているけれど、ステロイドをやめたい

■ステロイドを使用しても症状が安定しない

■自己流・自宅で脱ステロイドしたら大変な状態になった

■脱ステは出来たけれど、もともとのアトピー症状は改善していない

というケースです。

 

自己流脱ステの危険性

今回症例を紹介した患者さんは三番目に該当しますが、自己流での脱ステロイドは当院としてもお勧めするものではありません。

「脱ステのリバウンド」と呼ばれる症状の悪化は、それまで症状と付き合いながらなんとか送ってきた日常生活すら困難になる可能性があるためです。

脱ステ経過で生じることが多い症状などをまとめたページ

アトピーの標準治療

(市販薬を除き)ステロイドを使うときは医師が処方したわけですから、減らしたりやめるときも医師のサポートを受けながら行うのが賢明です。

しかし、いくら患者がステロイドを減らしたりやめたりすることを希望しても、ステロイドが標準治療である日本社会で担当の医師がその希望に寄り添ってくれるとは限りません。※世界的にもアトピーの標準治療では主にステロイドが用いられています。

こういった現状もあいまって、多くの患者さんが自己流の脱ステに踏み切ってしまっているのでしょうから、一方的に自己流の脱ステを責めることも、ステロイド治療を勧める医師を責めることもできません。

ステロイドに頼らないという選択肢

当院は、このような行き場のなくなった患者さんの受け皿となりながら、ステロイドや免疫抑制剤などに頼らなくても(非ステロイドでも)、バイオ入浴による免疫変換や食生活の管理などによって、アトピー症状をコントロールすることが可能だということを、社会に発信していきたいと考えています。

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