アトピー発症の原因(後編)

衛生仮説

昔の日本は道路も舗装されておらず、家も茅葺で土間中心の生活でした。
街中にも土埃が舞い、農業など土や自然に触れる仕事をする人も、現代よりずっと多くいらっしゃいました。土の中をはじめとして、健康な自然環境には、数えきれない種類・数の菌(バクテリア)が住んでいます。
人間は、成長する中でそれらの菌と触れ合い徐々に免疫を鍛えていましたが、人間の生活が自然から離れたうえにワクチンの過剰摂取などが原因で免疫の成長が不充分となり、免疫不全状態になってしまった結果がアレルギー体質だと言えます。
このような、「幼少期の免疫形成不全がアレルギー体質の原因」という説を衛生仮説と言います。

  • 昔の日本の家屋
  • 家の土間

他にも、大気汚染、食生活の変化、農薬や添加物の増加、清潔好きによる過剰な入浴洗浄、家屋の気密性が上がったことによるダニ・カビ・ペットといった抗原の増加、精神的ストレスの増加による免疫機構の過剰反応などが、アレルギー増加の一因だと考えられていて、特に3歳までの間にどんな環境で育つかが、免疫の形成に大きく影響することがわかっています。

アレルギー増加要因

菌との関わりによる免疫の成長

親としては、なるべく清潔な環境で子どもを育てたいと思うのが一般的です。
ウイルスや細菌は危険でなるべく避けるべきものと思われており、実際に命にかかわる危険なものも数多くありますから、できる限り遠ざけたいというのが親心なのでしょう。しかし、一方で特に細菌と触れ合うことは身体の免疫を成長させるという側面もあり、このように形成された免疫は一生の財産になります。
成人型アトピー性皮膚炎の方は、免疫機能が未発達なままであるために皮膚の病原菌感染が除去できず、それに対して異常なアレルギー免疫が作用しているのです。 衛生仮説についての論文をいくつかご紹介します。

① 国立成育医療センター研究所の松本健治氏

衛生仮説とアレルギー疾患の発症 アレルギー815-821 2010 松本 健治
【概要】
新生児がTh2免疫優位で誕生することや、自然免疫系の発達が獲得免疫系の活性化を抑制することなどについて

② 京都大大学院・東北大大学院医学系研究科の呉 艶玲氏、
京都大学大学院医学研究科の山崎 暁子氏らによる研究

衛アレルギーと衛生仮説 化学と生物 Vol. 44, No. 1, 2006 呉 艶 玲 山崎 暁子
【概要】
感染症の減少とアレルギーの増加の因果関係について

また、2017年7月には、国立成育医療研究センターから「2歳までに抗生剤を服用した子どもは、アレルギー疾患のリスクが高まる」と報告されています。

アトピー発症と重症化の機序を説明すると以下のようになります。

  • 1) 胎児の免疫が母親を攻撃しないよう自然免疫が抑制された(アレルギー免疫が強い)状態で出生。
  • 2) アトピーでなくとも軽度の免疫不全である母親から、胎盤や母乳を通して与えられる免疫力や免疫機能が弱く、赤ちゃん自身の免疫機能も弱いので乳児早期からの皮膚感染を繰り返す。※皮膚感染にアレルギー免疫で対応するので、皮膚は赤くなり痒みが生じるが感染は改善できない。
  • 3) 乳児は衛生的な環境で育てられ、わずかな菌にしか接触しない上に予防接種を打たれるので、自然免疫の発達の機会が与えられずアレルギー免疫が強いまま成長する。
  • 4) ステロイド剤を使用することで皮膚免疫が抑制され、湿疹は一旦改善するが、皮膚免疫は全体的に危弱化する。
  • 5) 食生活が悪い母親だと、母乳は栄養過剰になり乳児の皮膚分泌は増加。病原性菌が一層増加する。
  • 6) 3歳までの免疫成長期が終わり、免疫が形成されないまま成長する。※将来的に成人型アトピーとなる可能性が高い。
  • 7) 幼児期から思春期にかけて、スナック菓子や加工食品、リノール酸、ショートニングの摂取によって過敏症体質が形成される。
  • 8) 過剰栄養による皮膚分泌物の増加は病原性微生物を増加させ特に黄色ブドウ球菌の増殖を促す。※黄色ブドウ球菌は毒素が強く、スーパー抗原として働き皮膚炎を非常に悪化させます。
  • 9) ステロイドやプロトピックといった免疫抑制剤に頼らざるを得なくなり、その使用量が次第に増加していく。それは更なる皮膚免疫の低下と感染拡大を導きます。
  • 10) 慢性のステロイド依存型の重症アトピー性皮膚炎が完成(角質化、色素沈着、コラーゲンの破壊が進行)
  • 【補足説明】
  • ◎炎症で滲出液が増えたり角化が進行すると、ばい菌やカビが増加します。
  • ◎布団の中のダニも、落屑や湿度が増えことによって猛烈に繁殖します。
  • ◎患部を掻いてしまうことは皮下にアレルゲンを擦り込む事になって余計に痒くなり、そこにステロイドを塗ると、炎症は治まりますが皮膚免疫も低下するため、ばい菌やカビが増加します。
  • ◎悪循環が進行するとステロイドやシクロスポリンの内服治療が必要になりますが、いずれ耐性化して止める事ができなくなってきます。
  • 自然免疫Th1タイプ・獲得免疫Th2タイプ
  • アトピー患者の免疫バランスは、成長の過程で自然免疫(Th1)を充分に発達させることが出来なかったため、アレルギーを起こしやすくなる獲得免疫(Th2)系に傾いています。

    免疫を鍛えるために

    アトピー性皮膚炎の標準治療であるステロイドやプロトピックといった免疫抑制剤は、過剰反応している免疫の働きを抑える働きをしますが、免疫を抑えるということは、皮膚の病原菌は増殖して感染は拡大します。
    アトピー治療のためには、大人はもちろんですが、特に免疫が形成される3歳頃までは安易に免疫抑制剤に頼らず、免疫を鍛えるという考え方も必要となってきます。
    当院では、バイオ入浴をアトピーの症状改善のためだけでなく、身体の免疫機構を育てる手段と位置付けて提唱しています。

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