治療の現場から
涙の診察から3ヶ月 健やかな肌と笑顔を取り戻した 症例:57
2020.12.29治療の現場から
40代 女性 入院期間2020年9月~12月
入院までの経緯
中学生でアトピー性皮膚炎を発症し、ステロイド外用を開始。成人後、症状は悪化傾向にあった。
入院の3年ほど前、仕事で日光にあたったことをきっかけに顔に赤みや痒みが生じるようになったが、ステロイド外用を行っても改善は得られず、徐々に悪化。
入院の1年前からはステロイド使用を止めたが、リバウンドで顔の皮膚炎悪化。
その後も冬からは首やデコルテ部分にも痒みが生じるようになった。
入院の少し前からは両手にも皮膚炎が生じており就労困難で休職中にインターネットで当院を知り外来受診。後日入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
全身にアトピー性皮膚炎が生じている患者さんですが、血液検査ではIgEは基準値内で、典型的アトピー性皮膚炎とはタイプが異なるいわゆる「内因性アトピー」です。自然リンパ球が優位なタイプとも考えられます。
TARCの値も当院に入院する患者さんの中では高くはありませんが、入院時の好酸球15.0%、自覚症の値は最高値の28点と、強い皮膚炎が生じて生活に大きな支障を来たしていたことがわかります。
入院時は左肩にヘルペスも生じていましたが、入院後に内服薬を処方し数日で改善。
入院の当日からバイオ入浴にも取り組んだところ、10日ほどで顔の腫れ感やカサツキ、赤みなどが明らかに軽減し、2週間ほど経過する頃には、それまで痛みで強く握ることが出来なかった手指が握れるようになるなど、本人も改善を実感していました。
この改善は検査結果を見ても明らかで、1ケ月経過時点で好酸球は4.6%、POEMも17点まで低下しています。
入院直後は、中学生と高校生の二人のお子さんを自宅に残しているということもあって、精神的な不安感や寂しさが強く、私たちスタッフにもその緊張感が伝わってきていましたが、日にちが経つにつれて表情や他の患者さんとの関わりも大きく変わり、見違えるほどに笑顔や笑い声が増えていきました。
入院後2ヶ月経過時の検査では、TARCは基準値目前の490、好酸球は基準値内の2.5%、自覚症のPOEMも3点とデータ上は正常値近くまでに改善。
退院時には、下記の5つの検査項目だけではアトピー患者であると判断できないくらいまでに改善しています。
入院期間は約3ヶ月間になりましたが、最後の1ヶ月間は体調の自己管理や心理面のセルフコントロールなどを意識しながら、院内の行事ごとにも積極的に参加していらっしゃったのが印象的です。
ドクターズコラム
当院では、初めての外来受診の際の待ち時間に、過去の入院患者さんが書き残して下さった入院の感想や症例をまとめたファイルをお渡ししているのですが、この患者さんはファイルされた沢山の感想文を読んで、「自分がこんなふうに良くなれるのか不安でつらい」と涙を浮かべていました。
それが、退院直前に職員が面談したときには、「初外来の日にファイルを読んで順番を待った部屋に最近入る機会があったんですが、『3ヶ月前はこの部屋で泣いていたのに』と不思議な気持ちになりました。」と話して下さったそうです。
日頃から多くの重症アトピー患者さんに関わっている私たちは、皮膚炎が悪化している時期には、精神的・肉体的なつらさから発揮されることが難しかった患者さんの積極性や優しさといった本質が、症状が改善するにしたがって引き出されていく様子を頻繁に目撃します。
皮膚のツヤやハリを取り戻して退院していく患者さんの笑顔と、その人の内面からくる輝きを感じながら送り出せることが我々の喜びになっています。