治療の現場から
2年間の脱保湿・脱風呂を経て、当院入院で改善した男性 症例:92
2025.07.03治療の現場から
30代 男性 入院期間2025年1月~4月 86日間入院
入院までの経緯
生後間もなくから軽いアトピー症状がありステロイド外用を使用していたが、外で遊ぶようになる頃には症状がなくなった。
大学受験の頃からアトピー症状が生じるようになり、カポジも併発して地元の市民病院を受診。1~2ヶ月間ほどステロイド治療を受けた。
進学後は一人暮らしとなり、脱ステ・脱保湿を方針に掲げるクリニックへ通院。1年ほどで改善した。
大学4年で再悪化したが、上記のクリニックへ半年通院して改善。卒業後に就職してからも10年ほど症状は安定していた。
転職を経て、新型コロナワクチンの3回目接種をした時期からアトピー症状が再発・悪化。
近医皮膚科を受診しステロイド外用やプロトピックを処方され半年ほど使用したが、塗布をやめれば再燃する状況が続き、ステロイド外用の強度が徐々に強いものへと移行していった。
同皮膚科では大学病院への受診も勧められたが、薬剤の量・強度が益々強くなることに不安を感じ、過去に通院していた脱ステ・脱保湿のクリニックへ遠方ではあるものの通院するようになった。
2年間、脱保湿での治療に取り組んだが思うような改善が得られず、インターネット上で当院の入院治療の体験談を目にしたことから、入院を希望して受診。入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
マラセチア(酵母様真菌)感染を主体とした慢性期の皮膚炎患者さんです。
炎症の強さは皮膚の状態からも明らかで、上半身を中心に広い範囲にわたっての強い紅斑が広がり、皮脂分泌の多い前胸部には黄色の分泌物を伴う皮膚炎が生じていました。
入院時の血液検査では、皮膚炎の炎症の程度を示すTARCは5597pg/ml、アレルギー炎症を反映する好酸球は54.0%でした。
見た目の重症度の高さや、当院に入院なさる重症患者さんの平均的な値から考えるとTARC5597はそれほど高い値ではありませんが、一般的な基準値(450以下)から考えるとかなりの高値で、極めて高い好酸球の値からも重症状態での治療開始だったと言えます。
当院入院前は約2年間にわたって脱保湿に取り組んでおり、保湿だけでなく入浴・シャワーも控えていたため、入院直後は軟膏(非ステロイド)や保湿剤の使用に馴染めない面もあったようですが、徐々に慣れていった様子です。
また、入院直後からバイオ入浴にも取り組みましたが、入浴の習慣がない生活を続けていたこともあり、お風呂に入ることそのものに体を慣らしながら徐々に入浴時間を伸ばしていきました。
入院から1週間が経過するまでには胸部に生じていた滲出液の黄色い付着物(塊)もなくなり、痒みの軽減も実感するようになりましたが、間もなくして発熱や頭痛、倦怠感、リンパ節の腫れなどが生じるようになり、約1週間にわたってこの症状が継続したため、入浴時間を短めにするなどして対応しました。
発熱時期の後半に行った入院2週間時点での採血では、TARC1125、好酸球28.0%と皮膚炎の値は大幅に改善。
その後は体調に波がありながらもじっくりと治療や入浴に取り組み、検査結果や自覚症状も少しずつ改善していきました。
※この患者さんのようにマラセチア感染主体の慢性期のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、改善のペースが比較的ゆっくりの場合が多い傾向にあります。
体調が改善するにしたがって他の患者さんたちとの関わりも増え、院内での勉強会等にも積極的に参加。
食事療法にも関心が高く、退院後の生活に向けて院内にストックしているレシピをコピーしたり、気に入った調理器具を購入したりもしていました。
入院から3ヶ月を目前に退院なさいましたが、低下(改善)するのに期間を要することが多いIgE(アレルギー体質の程度を反映)も、3ヶ月弱の入院期間中に少しずつ低下しています。
退院の約2週間前に行った体内の免疫バランス(Th1/Th2)を調べる検査では、入院時の2.6から4.3まで上昇しているものの、健常者(アレルギーなし)の値7.9にはまだまだ及ばず、根本的なアレルギー体質の改善にはバイオ入浴の継続と日々の入浴時間の確保が重要になると助言をして送り出しました。
退院後もしばらくは自宅療養して症状の安定に努めるとのことです。
ドクターコラム
脱保湿・脱風呂について
入院前は脱保湿に取り組んでいたという患者さんです。
入浴を控えていた期間が長く、幼稚園生のお子さんをお風呂に入れることもなかったそうですが、退院後は一緒にお風呂(バイオ入浴)に入ることが楽しみだと話していました。
アトピー性皮膚炎の治療方法にはいろいろな考え方があり、当院へ入院なさる患者さんの中にも、脱保湿の経験があるという方が非常に多くいらっしゃいます。
このような患者さんは、入院当初は、入浴を控える脱保湿生活から、外用薬・保湿剤の使用に加え日常的にバイオ入浴を行う生活への変化に戸惑いもあるようですが、症状が改善するにしたがって新しい生活習慣が身についていきます。
保湿・脱保湿についての当院の考えはこちらのページでご紹介しています。
バイオ入浴開始直後の発熱等について
当院に入院しバイオ入浴をなさる患者さんには、この患者さんと同様、入院の比較的早い時期に発熱等の症状が生じるケースが多く見られますが、これはバイオ入浴によって全身の皮膚の免疫細胞が刺激されていることが要因として考えられ、数日から10日間程度で発熱等が治まると同時に、アトピー性皮膚炎の症状が大幅に改善することが珍しくありません。
ご本人にとって発熱等はつらく不安な症状ではありますが、なんとか前向きに治療に取り組んでもらえるよう、看護師などは励ましの声をかけることを大切にしてくれています。
当院では、入院中の患者さん同士の間にも励まし合いの関係性が醸成されていることが多く、つらい状態にある患者さんにとっては、ときに我々医療者からの声がけ以上に勇気づけの言葉となっているようです。
なお、このような発熱等の症状は、バイオ入浴開始から1ヶ月以内の時期に生じることがほとんどですので、入院を希望なさる患者さんには、比較的症状が軽い場合であっても、2ヶ月間程度の入院期間を見込んでおくことをお勧めしています。