治療の現場から

       

口腔内にもトラブルを抱えた男性。非ステ入院治療で自覚症状なしまで改善 症例:83

2023.12.20治療の現場から

40代 男性 2023年 入院日数56日

胸部#83 背中#83前腕#83 足甲#83

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入院までの経緯

幼少期のアレルギー症状は、ハウスダストによる鼻炎のみで皮膚症状はなかった。

入院の5年ほど前から手足に湿疹が出るようになり、近医皮膚科を受診した。処方された薬剤の名前は覚えていないが、ステロイドを使用していたという記憶。

症状はなかなか改善せず、良くなったり悪くなったりを繰り返していたが、入院の一年前から別の皮膚科へ受診するようになり、それまでとは別のステロイド入り混合外用薬の使用を開始した。

入院の1~2ヶ月前から、部分的だった症状が入院の全身にひろがって悪化。
当院をインターネット検索で知り入院を希望して受診し、仕事上の調整を済ませてから入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

入院後の経過

入院の約2週間前に当院を初めて受診なさった際、これまで使っていた薬にステロイド(ストロングクラス)が含まれていることを初めて知ったというこの患者さん。

初診日から入院の日までは当院が処方した非ステロイド薬のみ使用していたとのことで、頭皮からの滲出液や皮膚のピリピリ感、微熱も生じていました。

ステロイド中止の影響で症状がより悪化する可能性が考えられたため、入院初期はウィーク(最も弱い)クラスのステロイド外用を使用して、リバウンドを防ぎながら治療を進めることとしました。

また、入院中はバイオ入浴にも取り組み、深夜勤務があって不規則になりがちだった睡眠や食生活も、規則正しいリズムを取り戻しました。

治療開始後の変化は明確で、入院時28836あった炎症の値を示すTARCが約2週間で3496まで低下(改善)。

入院から約3週間後からはステロイドを含まない外用薬に変更しましたが、ステロイド中止の影響は見られず、入院1ヵ月時点での検査ではTARC747、急性期のアレルギー反応を示す好酸球は基準値内の6.3%、自覚症状を示すPOEMは2点と、きわめて軽症と言えるレベルまで改善しました。

その後の経過も順調で、当院で治療する重症アトピー患者としては比較的短い56日間での退院となりました。

入院当初は顔や体幹、四肢はまだらに赤みがあり、四肢・背部には大きく盛り上がった湿疹(痒疹)が多数生じていましたが、退院時には赤みがなくなり、痒疹の盛り上がりも縮小又は消失。

色素沈着はまだまだ残っているものの、POEMは0点と日常的な痒みからも解放されて、TARCや好酸球は基準値内です。

自己流の脱ステでは、脱ステ直後からのいわゆるリバウンド悪化が治まるまでに半年から年単位の時間を要するケースも珍しくありませんが、この症例のケースでは、バイオ入浴による免疫変換と、入院前までの不摂生が是正されたことが相まって、極めて順調な改善が得られたと考えられます。

ドクターコラム

入院時、口腔内のトラブルが多く、退院後は本格的に歯科治療にも取り組みたいと話していたこの患者さん。

口内の炎症が全身の炎症につながることは広く知られていますので、口腔内に問題を抱えているアトピー患者さんに歯科治療をお勧めすることはしばしばあります。

特に虫歯(う歯)は慢性的な細菌感染の場になっており、免疫を過剰に刺激しアトピーを悪化させている可能性があります。
また歯科金属による金属アレルギーは、口腔内の苔癬(たいせん)やアトピー性皮膚炎の悪化原因の1つです。

私も歯科金属の除去により皮膚炎が軽減された患者さんを多数経験していますが、歯科金属だけで重症アトピー性皮膚炎が生じることはまずありません。顔(特に口周り)や四肢の、軽~中等症の皮膚炎がほとんどです。

インプラント治療や整形外科での骨折に対する金属プレート治療も注意が必要です。

当院では、開院当時から歯科治療の金属アレルギーの問題点を指摘し、口腔金属の除去をお勧めしてきました。
当初は歯科医の方からの理解が十分には得られませんでしたが、医学的な認知が浸透し、2016年4月からは、金属アレルギーの患者さんはレジンなどのプラスチックへの切り替え治療が健保適用で可能になっています。

皮膚科やアレルギー科で金属アレルギーの検査(パッチテスト)を受け、アレルギーが見つかった場合には、診療情報書を歯科医院に提出することによって、通常は自費となる非金属での治療が保険適用になるのです。

当院でも希望する入院患者さんに対して金属アレルギーのパッチテストをすることがありますが、パッチは4日間ほど貼り続けなければならず、その間2日は入浴が不可となるためバイオ入浴も中止せざるを得ないというデメリットがあります。

また、皮膚炎が強く生じている肌ではテストが出来ませんので、重症者の場合はある程度アトピーの治療が進み、普通肌の部分が現れてから実施することになります。

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