治療の現場から

       

大学を休学しての入院治療 暗いトンネルの先に光が見えた 症例:81(2症例)

2023.11.01治療の現場から

同時期に入院していた、二人の大学生の症例です。

二人とも、大学の休学中に入院治療を受け順調な改善を得て退院なさいました。

今年は例年に比べて学生の入院患者さんが多い傾向にありますが、学業と治療の狭間で悩んでいる若い患者さんの参考になればとの思いで、2症例合わせてご紹介します。

Mさん 女性 2023年 62日間入院

入院までの経緯

生後間もなくから軽度の皮膚炎。卵への食物アレルギーもあったが、成長とともに食べられるようになった。
母親もアトピー症状があったこともあり、ステロイドはあまり使用しないようにして育てられた。

中高生になって、部分的な症状に皮膚科で処方されたステロイド外用を使用することがあったが、日常的な使用ではなかった。

入院の約1年前、引っ越しをした頃から、風邪、扁桃腺の腫れ、高熱などの体調不良が続くようになり、入院の半年前からは皮膚症状が悪化。

成人式直前の3日間ステロイド外用を使用して皮膚炎を抑えて当日をむかえ、成人式終了後、ステロイド外用を中止すると、リバウンド症状が生じた。

母が効果を感じていた民間療法を行ったところ、少し状態は落ち着いたが、改善には至らず当院を受診。入院となった。

入院後の経過

アトピー症状による大学休学に当院を受診し入院なさった女性です。

入院1週間前に外来初診へ訪れた際に行った、食べ物に関する指導を実践したところ、入院までに明らかに改善を感じられたとのことで、食事管理の大切さを入院前から実感していたようです。

症状は顔をはじめ上半身に集中していて、耳周りは滲出液によって髪が貼り付いてしまうこともありました。

また、血液検査では、スギ・ヒノキ等の花粉へのアレルギー反応が高く、マラセチアや黄色ブドウ球菌への反応も認められました。

入院治療を開始すると、顔や体部をはじめとする皮膚炎や自覚症状は比較的スムーズに軽減。

活発で人懐っこいキャラクターから年長の患者さんともすぐに打ち解け、空き時間に食堂でトランプゲームをしたりしている場面をよく見かけました。

2ヶ月間の入院を経て退院する際には、一部に色素沈着は残っていますが明らかな皮膚炎が認められるのは右の耳のみに。

退院の際は、バイオ入浴を続けながら食事をはじめとする日常生活に気を付け、健康な皮膚を定着させることを目標にするようアドバイスをして送り出しました。

退院後の様子

退院から4ヶ月ほど経過して外来受診した際は、自覚症状のPOEM4と軽症。
大学は次年度から復学予定ですが、体調が良好のためアルバイトをして過ごしているとのことでした。

 

Iさん 女性 2023年 79日間入院

入院までの経緯

高校3年の冬頃から頬の一部に痒みを感じるようになり、それが約1年数ヶ月続いた。
その春からは花粉症とは異なる目の異常(目やに、腫れ、痒み)を感じるようになり、頬の痒み、目の痒みの範囲が拡がり始める。

眼科ではアレルギー性結膜炎と診断。
皮膚科では脂漏性皮膚と診断され、ミディアムとストロングクラスのステロイド外用の処方を受けたが効果なく、後日アトピーと診断された。

別の皮膚科では保湿剤を処方され治療を続けたが、熱感と痒みで保冷材が手放せなくなり、次に処方されたタクロリムスの軟膏は、使用開始直後は効果があったが1週間で効かなくなった。

同年秋に、通っていた鍼灸院で脱ステ・脱保湿を勧められ開始。
ステロイドの中断以上に、保湿を中断したタイミングで症状が強く悪化し2~3ヶ月続いた。

翌年の1月、他院にて光線治療を開始。多少の効果は感じられたが、顔と目の腫れ、赤み、乾燥、痒み、滲出液が生じている状態が続き、当院を受診。入院となった。

入院後の経過

顔に生じたアトピー症状の治療を目的に入院なさった大学生の女性で、入院前から体部や四肢にはほとんど症状はありませんでした。

入院までに様々な治療を行ってきたとのことですが、どれも望ましい効果が得られず大学も休学中とのことで、悩んだ末に意を決しての入院。

入院時の検査では、皮膚炎の程度を反映するTARCは、顔を中心とした皮膚炎で炎症面積が小さいため422と基準値内でしたが、好酸球14.3%、IgE7093と高く、スギ花粉や、脂漏性皮膚炎を引き起こすマラセチアへの反応も強かったため、強いアレルギー体質に裏打ちされた顔の皮膚炎と考えます。

油脂の分泌腺が発達している顔は微生物感染が生じやすい部位ですが、この症例のようにステロイドやプロトピックで無理矢理押さえつけると、逆に範囲が広がって悪化してしまうこともしばしばです。

入院後は治療と並行してバイオ入浴も実施。免疫変化のアプローチを通じて症状は少しずつながら着実に改善し、退院直前にはマラセチアへの反応も低減していて、体質改善が進んでいることが確認できました。

慣れない土地での入院生活にはじめは不安があるとのことでしたが、同時期に入院した他の患者さんとも仲良くなり、充実した療養生活を送っていたようです。

退院後の様子

退院から2ヶ月ほど経過して外来受診した際も、一部に皮膚炎はあるものの全体的な体調は良好で、療養しながら大学復学に向けて準備をしていくとのことでした。

 

ドクターコラム

今回ご紹介した二人の大学生のように、アトピー症状で休学している学生が入院してくることはたびたびあることで、「復学や卒業に向けて何とか症状を改善させたい」と本人も親御さんも真剣です。

高校や大学を休むことは、勉強に遅れが生じやすくなったり、場合によっては留年せざるを得なくなったりといったことがつきまといますから、健康に学生生活が送れるに越したことはありません。

しかし、残念なことにアトピーなどの慢性疾患が悪化してしまった場合には、両立を目指すのか、治療を優先させるのかの選択を迫られることになります。

両立ができるなら良いのですが、悪化が進むと勉学の面でも良いパフォーマンスを発揮することは難しくなりますし、それは社会に出て働くようになってからも同じこと。また、特に女性の場合、顔のアトピーには大きなハンデを感じるものです。

長い人生のどこかのタイミングで、食事を含めた生活全体の改善と、アトピー体質という根本へのアプローチに取り組み始めるのであれば、時間や社会的責任といった制約が増す前の学生時代からというのは、悪い選択ではないはずです。より良いコンディションで進学・卒業・就職をむかえることは、その後の人生をより豊かなものにしてくれるのではないでしょうか。

私自身、高校時代に誤診によって結核療養所に入所を余儀なくされ、その後も重度の喘息で学業が滞ったため高校3年生を3回やるハメになりましたが、今となっては、当時の経験が後の人生をいい意味で決定づける大きな要素になったととらえています。

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