治療の現場から

       

正しいバイオ入浴の方法とは!? 浴水管理のこれまで

2023.04.15治療の現場から

バイオ入浴では、バクテリアの培養に適した循環装置を使用して浴水を管理しますが、過去には様々な管理方法を試みました。

この記事では、当院が過去にどのような浴水管理を試みてきたか、その変遷をご紹介します。

循環装置を使うようになる前はバイオ入浴という名前もなく、民間療法であるマコモ風呂の延長として、患者さんにおすすめしていました。

しかし、浴水中のバクテリアがもたらす免疫への作用を研究する中で、「神秘的、不思議、奇跡的」というキーワードで扱われることが多い民間療法から脱却し、人体への作用機序や効果的で安全な管理・使用方法を明らかにして、治療法として体系化する必要性を感じるようになりました。

今から10年ほど前、循環装置を使用した管理をするようになるとこれらの体系化は急速に進み、バイオ入浴という手法を確立。米国では治療法として特許を取得することもできました。

特許状表紙1

特許状の表紙

特許状見開き

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なお、「バイオ入浴=循環装置を使用」ですが、循環装置を使用していることだけをもってバイオ入浴と呼べるのかというと、そういう訳ではなく、浴水の管理全般を理解・実行してこそのバイオ入浴であると言えます。

循環装置を使う前の方法は、安全性の面でも浴水管理の安定性という面でも不安があり、退院後の患者さんからも、管理が上手くいかないという相談が多く寄せられました。

浴水の管理状態の悪いと、かえって症状を悪化させたりすることもあり得るため、こういった問題をきっかけに入浴法をやめてしまう患者さんもいて、実際に退院からしばらく経った患者さんに行ったアンケートでも継続率は高くなく、症状のコントロールにも苦労しているという患者さんも少なくありませんでした。

このような状況を解消するための方法を模索して、たどり着いたのが現在の循環装置を使う方法です。

循環装置の自宅導入には費用面以外にも、電源やコードの取り回しなど設置に関するあれこれを考える必要があるため、「循環装置を使わずにバイオ入浴のお湯を管理する方法はないか?」という質問を受けることも少なくありません。

そこで今回は、循環装置を使用する方法が(今のところ)最善だと考えるように至った経緯を、当院が行ってきた試行錯誤とともにご紹介します。

 

試行錯誤① 投げ込みヒーター

屋外作業などのために製造されている投げ込みヒーターは、屋外の作業場などで臨時的・スポット的にお湯を沸かすためのもので、24時間付けたままにするものではありません。

温度を一定に保つことは困難なうえ、人が入浴することには、最悪の場合、漏電・感電(死)の危険性もありますから、浴水を管理するような用途には絶対に使用しないようにしましょう。

当院でも、ヒーターそのものは試しに購入しましたが、安全性の観点から実際には使用しませんでした。

空焚きに対する安全性も低く、投げ込みヒーターの誤った使用方法が原因で火災が起きた事例もあります。

また、実際に入浴剤(真菰という植物の発酵粉末で、この記事では、以下、真菰発酵粉末と呼びます。)を入れた浴水を温めようとすると、ヒーター部分に入浴剤が焼き付いて故障が頻発します。

投げ込みヒーターという製品そのものが悪いのではなく、用途が異なるのです。

試行錯誤② お風呂用湯沸かし器(スティックタイプ)

投げ込みヒーターをお風呂用にリメイクしたようなタイプの市販製品で、実際に使用したことがあります。

湯温を一定に保つという機能はありますが、投げ込みヒーターと同様、実際に真菰発酵粉末入りの浴水を温めようとすると、ヒーター部分に入浴剤が焼き付いてすぐに故障してしまいました。

また、お風呂の保温には使えますが、漏電リスクがあるため投入したまま入浴することは禁止されていて、長時間の入浴になると徐々に湯温が下がってしまいます。

漏電防止装置がついているにもかかわらず、当院では職員の感電報告があり、ヒーター部分の焼き付き損傷が原因だと考えられました。やはり、製品そのものが悪いのではなく用途が異なるのです。

念には念を入れた安全確保の重要性を痛感させられた出来事でした。

試行錯誤③ お風呂用湯沸かし器(ポンプタイプ)

浴水に浮かべた本体内にポンプで浴水を取り込み、内部のヒーターでお湯を温める仕組みの市販製品です。

温度設定もアバウトな管理しかできないものが多いうえ、入浴時には浴槽の外に出すことになっていて、長時間の入浴になると徐々に湯温が下がってしまいます。

保温はできますが、水道水以外(井戸水や湧き水)では使えず、入浴剤の使用も不可ですので、真菰発酵粉末を入れた浴水を温めるのには使えません。

当院でもテスト使用はしましたが、投げ込みヒーターやスティックタイプと同じようなヒーター管を使用しているため、入浴剤が焼き付いての故障に加え、ポンプも頻繁に故障します。

また、これら浴水に本体ごと投入するタイプは、ネット検索すると漏電の体験談が多数出てきます。

 

試行錯誤④ ターポリン製袋での湯せん(通称テント風呂)

こちらも過去に当院で行ったことがある方法で、上記ヒーターの安全性への疑問から考えました。

方法としては、業者に特注してターポリン(防水性と耐久性に優れる生地で主に屋外テントなどに使われる)を袋状に加工し、浴槽の中に入れます。

この袋の内側にお湯を入れて、真菰発酵粉末を投入します。

外側にも普通のお湯を溜め、追い炊き機能などを使って加熱・保温して、袋内の真菰発酵粉末入りの浴水を湯せんのように温めました。

熱効率が悪く温度管理が不安定なことや光熱費アップに加え、ターポリン生地で作った袋は窮屈で入り心地が悪く、容量も少ないため水湿が悪化し易いことなどがデメリットでした。

 

試行錯誤⑤ 不凍液ボイラー

こちらも院内で実際に行った方法で、不凍液が流れる管を浴槽の底面に巡らせ、その上に板を置いて入浴する、五右衛門風呂のような加熱・保温方法です。

ボイラーの設置・管理、配管など設備が大掛かりになるうえ、浴水内に不凍液が漏れるリスクがありました。
実際に漏れた場合はお湯を抜いて漏れを修理し、新しいお湯を作るという作業が必要になります。

不凍液が漏れると、浴水中のバクテリアが死滅し水質が悪化。当然皮膚炎も悪化してしまいます。

一般家庭では導入が難しい方法でした。

 

試行錯誤⑥ 備え付けの追い炊き機能

浴室備え付けの追い炊き機能で真菰発酵粉末を入れた浴水を加温・保温すると、追い炊きの給湯設備が故障する可能性が高く、浴水にも悪影響を及ぼします。

また、ここまで説明した各方法にも共通して言えることですが、バクテリア培養に非常に重要な浴水内へのエアレーション(空気・酸素の供給)を行うことはできず、浴水管理としては不十分です。

 

試行錯誤 ⑦ 加温循環装置

その次に試したのは、ある人が特注で作った加温循環装置でしたが、2週間ほどでヒーター部分が焼け付き故障。

市販の24時間風呂を流用する方法を試みましたが、やはり2ヶ月程でヒーターとポンプがダメになりました。

ひとことで加温循環装置と言っても、どんな製品でも良いというわけではないのです。

 

加温循環装置を新開発

このような試行錯誤を何年も繰り返す中、焼き付きがほとんど生じないセラミックヒーターというタイプのヒーターにたどり着き、セラミックヒーターのメーカーにコロナ工業株式会社を紹介してもらいました。

コロナ工業は長年24時間風呂を製造販売していて、ノウハウが蓄積しているため、相談を持ち掛けたところ様々な面で支援を受けることができ、耐久性に優れたポンプやエアレーション機能も装備できました。

はじめはコロナ社の既製品を使って浴水を管理することから始めましたが、その後、当院の要望を反映させたオリジナル機(のちのネイチャーサポート社 SPA24)の開発をお願いし、既存品の金型・デザインを流用しながらも、独自機能を備えた循環装置が誕生しました。バクテリアの培養装置として国内の特許も取得しています。

加熱、保温、撹拌、エアレーションという様々な課題が解決できたことによって安全性が確保され、患者さんにお伝えする浴水管理も定型化されました。

 

バイオ入浴を行う方へ

新たにバイオ入浴を開始する患者さんには、上記の加温循環装置を使うことをお勧めしていますが、コロナ社の市販品との違いご理解頂けていない場合もあります。

また、費用削減のために中古品を購入したところ、届いた段階で故障していたり、トラブル品だったという方も複数いらっしゃいました。

バイオ入浴を開発・提唱する者として、バイオ入浴を行う方には、入院期間や教育入院などを通じて出来るだけの情報提供や指導をしたいと考えていますが、推奨外・想定外の使用法では望む結果は得られがたいものであり、そもそも異なった管理方法をしているものは、仮に同じ入浴剤を使っていたとしても、それはバイオ入浴とは似て非なるものです。

今後バイオ入浴を開始する方にも、正しい知識を身に付けてバイオ入浴に取り組んで頂きたいと思います。

筆者のプロフィール

院長

ナチュラルクリニック21院長 久保 賢介
1957年4月3日 福岡県 北九州市出身
2001年10月 有床診療所ナチュラルクリニック21 開設
所属学会:日本アレルギー学会/日本心身医学会
15年間以上、アトピー性皮膚炎患者の入院治療にあたっている。

詳しいプロフィール 医師・スタッフ紹介

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